電源基礎知識:電源進化の軌跡。スイッチング電源の歩み。
2026.02.04
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コラム連載2回目のテーマは「電源進化の軌跡」。テレビやエアコンといった家電製品やスマートフォンの充電器など、わたしたちの暮らしを支える電子機器に不可欠の電源が、どのように進化してきたかについてご説明します。
リニアからスイッチングへ

本題に入る前に前回のおさらいを。電源は「電子機器を安全かつ正常に作動させる」ものであり、現在主流のスイッチング電源が実用化される前の1950年代以前は、銅と鉄でできた、大きくて重い、電力変換効率が50パーセント程度のリニア電源しか存在しませんでした。
1960年代にスイッチング電源への進化を促したのは、アメリカが月への有人宇宙飛行を人類で初めて実現したアポロ計画でした。この計画では電源の小型・軽量化と高効率化が至上命題とされたことから、試行錯誤の末、トランジスタを利用したまったく新しい方式のスイッチング電源が実用化されたのです。
専用ICの開発で性能アップ

では、スイッチング電源は今日までどのような歩みをしてきたのか? その軌跡を10年ごとに振り返ります。
1970年代に入ると、スイッチング電源は民生品に使われ始めます。とはいえ当時のものは部品のバラツキが多く、電圧温度により性能も変化するなど製品としての信頼性が高くありませんでした。また、回路設計が容易でないことから設計者の数が限られ、これも普及拡大の足かせとなっていました。
そうして迎えた1980年代、大きな転機が訪れました。それは電源専用ICの登場です。一定周波数で安定した電力変換を行う「他励制御IC」の開発により信頼性が高まり、回路設計の難易度が下がったのです。その一方で、回路部品の数が多く高コストという従来の弱点を克服できなかったため、当時のスイッチング電源は主に複合機など高価な業務用の電子機器への採用にとどまっていました。
コストダウンでグッと身近に
1990年代、スイッチング電源は念願のコストダウンを果たします。そのカギとなったのは回路部品の数を大幅削減し、主要部品だけを一つのチップにまとめた「ワンチップ化」です。同時に回路設計のハードルも一段と下がり、設計者の数がさらに増えたことから、スイッチング電源の用途は家電製品に広がっていきました。もちろん、同年代半ばから急速に普及したパソコンもその例外ではありません。やがて携帯電話の1人1台時代が訪れると、充電器に組み込まれるスイッチング電源には「より小さく、より高効率」であることが求められました。
これは余談ですが、アルファトランスがスイッチング電源の開発に取り組み始めたのは、前身会社の1990年代後半のことでした。ちょうどそのころから不要な電磁波であるEMCノイズ対策が必須となり、わたしたちは技術革新のため日々努力を重ねていました。
グリーン化&デジタル化に貢献
世紀が変わった2000年代、環境負荷低減に配慮したグリーンITの波を受け省エネニーズがさらに高まったことから、電子機器の待機電力を減らすスイッチング電源が登場します。そして「同期整流」という技術により、高効率化も加速していきました。
2010年代にはデジタル化を目指す社会の要請に応えるため、GaN(窒化ガリウム)やSiC(炭化ケイ素)などの次世代半導体を搭載し、電力変換効率を飛躍的に高めたものが開発されました。同時にスマートフォンをはじめとするモバイル機器向けに、スイッチング電源はより小さく進化していったのです。
たゆまぬ進化を担うのは人

2020年代もすでに半ばを過ぎましたが、今後より一層の増加が見込まれるのがAIサーバー向けの用途です。また、持続可能な社会の実現に向け、電気自動車や再生可能エネルギー設備を支えるスイッチング電源のさらなる進化が求められています。近い将来には、電力変換効率が90パーセント以上の超高効率タイプが一般的になると予測されています。もしかすると、世界を劇的に変えるとされる量子コンピューターを動かす未来型の電源が登場する日も、そう遠くないのかもしれません。
アポロ計画という歴史的なプロジェクトをきっかけに実用化されたスイッチング電源は、その時代、時代の電子機器と歩調を合わせて成長し、人びとの暮らしを豊かにしてきました。そんな進化の軌跡を描いてきたのは、回路設計はもとより部品製作など、さまざまな立場からイノベーションに挑んできた技術者たちです。
ところが今、日本では技術者不足が深刻な問題になっています。部品の国内生産減少に伴う供給リスクも無視できません。スイッチング電源の開発に長年取り組むアルファトランスでは、人びとの暮らしを豊かにする技術を未来につなぐことを最優先課題の一つと考えています。そのためにも、当コラムを通して一人でも多くの方に、スイッチング電源の役割と技術継承の重要性について、少しでもご理解を深めていただければ幸いです。


